『四つの署名』-「シャーロックホームズの冒険」を読んでみた。【全体のあらすじと考察】
四つの署名(The sign of four)
※「サインは四」などとも。
ホームズシリーズ第二作の長編です。
一作目の「緋色の研究」と同じく、一部の真相究明と二部の犯人の自白からなる二部構成。
ではまずあっさりとネタバレあらすじをどうぞ。読書後の感想は下にまとめました。
あらすじ
軍人の父が謎の失踪を遂げて以来慎ましく暮らしていたメアリ・モースタンは、何故か毎年真珠を贈ってくる謎の人物から、今年は妙な招待状も贈られたというのでホームズの所に相談に来た。
サディアス・ショルトーなる人の家に向かった一行は、モースタン大佐は従軍中に発見したアグラの財宝の処遇について彼の亡父のショルトー少佐と口論している最中に心臓発作で死亡したと知る。しかしメアリ嬢に遺贈されるはずの財宝は、彼の亡父のショルトー少佐と兄弟のバーソロミューの反対で、真珠程度しか贈られてこなかったのだ。
しかしつい最近亡父の隠したアグラの財宝をバーソロミューが発見したので、サディアスはメアリ嬢に真実を知らせて財宝を山分けするために呼び出したのだった。
その後ショルトー家の屋敷へ向かった一行は、バーソロミューが異様な笑みを浮かべて死んでいるのと、アグラの財宝が消えたことを発見した。死体には「四つの署名」という、モースタン大佐の遺品やショルトー少佐の病死の際にあった紙と同じものが添えられていた。
現場を調べたホームズは犯行は二人で行われ、毒の吹き矢が死因だと明らかにする。しかし後から来たジョーンズ警部は頓珍漢な推理でサディアスと屋敷の使用人らを一挙に逮捕した。
もう夜も遅かったので、ワトスンはメアリ嬢を家に送った。この宵の奇怪な出来事が二人の距離を一気に縮めていたが、しかしこんな時では財宝目当ての男のようだし、弱った心の隙につけ込む事だとも思えて、ワトスンは募る思慕を自制するのだった。
ホームズは共犯者が現地人ということも合わせて犯人たちの特徴や名前をもズバリと推理し、船で逃走したことを知って追跡は手こずったものの、警察の船上で張り込んで犯人の船が造船所から出るのを待った。
そして激しい追走劇の後、事件の首謀者であるスモールを逮捕することが叶ったのだった。
ワトスンはメアリ嬢の前で奪還した財宝の箱を開くが、しかし中は空だった。ワトスンは思わず歓びの声を上げて彼女にプロポーズし、財宝という身分差が無くなった2人は見事結ばれる。
スモールは財宝は全てテムズ川の底だと哄笑した。徒刑囚だったスモールはかつてアグラの財宝を3人の協力者と手に入れ、「四つの署名」を記して所有の証とした。そしてモースタン大佐とショルトー少佐に分け前を与える代わりに自分たちを脱獄させるようにと交渉したが、ショルトーはそれを裏切り、財宝を持って1人イギリスへ帰ったのだ。
スモールと刑地で友好を築いた現地人はショルトーを追って、彼の病死体に裏切りの報復として「四つの署名」を添えた。やがてバーソロミューが隠された財宝を見つけた時も、現地人の毒矢で殺された彼の遺体の傍に「四つの署名」を置いて財宝を持ち去ったのだ。
この事件を通してジョーンズ警部は名声を、ワトスンは婚約者を得るが、ホームズは「僕にはコカインがある」と言ってまた退屈な時間を持て余すのだった。
話の構成について
実は現地人が犯人の一人だった、というのには現実らしさがないように思えるのですが、意外性はすごくあります。
推理小説なのにアクションが多くて、ハラハラして読めますしね。謎解きも好きですがこういうのもたまには良いものです。
全体を通してスリル&ロマンスがテーマになっています。
ホームズはワトソンの書いた作品を「ロマンスばっかりで事実に忠実でない」みたいな感じで手ひどく批評していたのに、よくもまあワトソンはその批評されたセリフまで入れて、本作をこんなストーリーで書き上げたものだと思います。なかなか図太いですね。たぶんホームズと一緒に住むならこれぐらい我が強くないとダメなのかもしれません。
キメすぎホームズ
ホームズの傍若無人さが初っ端から発揮する。コカインを一日三回キメて、ワトスンの厚意から出版された「緋色の研究」を批判。ムカッと来るワトスンの気持ちもよく分かるものです。
それにしてもコカインに始まりコカインに終わってしまう話だなあ。ホームズは仕事が報酬とはいえ、一番の功労者がこういう終わりなのは切ない……。
年がいくと活動の反動にやってくる憂鬱はガマンできるようになっていきますが、やっぱり若い頃は飽き性で移ろい気があるから反動の間隔が極端に短くなってしまうのですかね。
話の途中に出てきた酒浸りのワトスンの兄は、麻薬と事件と退屈の間に浮き沈みするホームズの姿を写しているようにも思えてしまいます。
ロマンスが嫌いだの退屈なのが辛いだのああだこうだいうから、遊び心なんてないやつかと思えば、変装して警部とワトスンにイタズラする所にホームズのお茶目さがあったり。
でもそういう一面を見せるのは事件が進展して機嫌が良い時に限っていて、犯人への手掛かりがようやく見つかったからこういうおふざけをするんですよね。
進展しないとイライラしてろくに口もきかずに、昼も夜も部屋を歩き回って家主を悩ませたり、悪臭を放つ科学実験を始めたりして、すえには同居人を朝っぱらに叩き起こしたりもする。
やっぱり気難しくて面倒くさいやつだ。
そして、結局愛を否定しているホームズはワトスンの結婚を祝福してあげないのですね。
ワトスンとホームズはこの時点で同居生活は結構長く続いていて(約6年)、当然それだけ仲良くなったことだろうと思いますが、この様子では結婚式のベストマンなんかやってくれそうにない。
拗ねたようにコカインに手を出す様が道ならぬ恋に破れた男のようだ友達を彼女にとられて寂しがってる、という意見も。
親友が自分の幸せを祝ってくれていないと知った時のワトスンのショックが慮られます。まったくホームズってやつは。
今回は出番が多いワトスン
「数多くの国と三大陸に跨って見てきた婦人の中でもこんなに繊細で洗練されている気高さを持った人はいなかった」
なんて書いてあるあたり、ワトスンは意外とヤンチャしていたのだろうか。
「たくさんの狩りの体験」とも書かれているので、やはり従軍経験の間かどこかに色々と波乱があったと考えられます。やるねえ。
メアリーにベタ惚れしつつ、The紳士なので世間体を考えて恋心を自制しています。しかし愛する女性のためなら我が身も厭わぬ情熱や、恋心を口にして良いとなった途端に告白する果断さもある。とってもナイスガイじゃないか!
あと、ワトスンの傷跡描写がこの作品から足に移動しました。
前作の「緋色の研究」でワトスンの傷跡は以下のように描写されています。
「ジェザイル弾を肩に受けて負傷した(冒頭でのワトスンの説明)」
「左腕が不自然に強ばっているから、怪我しているのだと分かった(ホームズの推理にて)」
しかし「四つの署名」では
「しかし私はホームズに言い返さないで、ただ傷ついた足を撫でていた。かつてジェザイル弾が貫いた足は、歩く事に支障はないけれど、天気の変わる度に痛んだ(地の文)」
「(捜査について来るかワトスンに尋ねて)君の足は6マイルほど歩くのに耐えられるだろうか?」
このように明らかに足のほうに怪我があることが度々書かれているものだから、まさかワトスンはジェザイル弾を二発も受けたのか?
という疑問が出てきてしまいます。
この後の作品でもワトスンの怪我の描写は出てきますが、やはり足を怪我しているっぽいです。うーん、謎だ。
次は単行本「シャーロックホームズの冒険」の「ボヘミアの醜聞」です。