「シャーロック・ホームズ-悪魔の娘-」の解説・感想【事件の正解と私の出した結論について】

 

正月休みを利用して「シャーロック・ホームズ-悪魔の娘-」を攻略しました。

今回の記事では、ゲームの感想と私が選んだ結末について、そして推理の正解(真犯人など)についてまとめています。

 

他の人はどう考えながらプレイしていたんだろう?

このゲームの正解って何?

というようなことが気になっている方向けです。ネタバレ全開なので、全クリアの上で読むことを推奨します。

 

 

 

クリア後感想

 

まず私個人のゲームの感想から話していきます。解説はその後に。

 

システム・シナリオについて

 

他の記事を見てもらったら分かるかもしれませんが、私はシャーロック・ホームズが好きです。

なんでこの「シャーロック・ホームズになりきれる」というゲームシステムはめちゃくちゃ面白かったです。

 

でもそれが故に、「ホームズがこんなアホらしい間違いをするわけがないだろ!」というプレッシャー(?)からけっこうリセットを繰り返したりしました。

とにかくホームズを「ヘッポコ探偵」にしたくない一心でプレイしていたので、謎解きに時間がかかるとちょっと悲しくなったりして…。ダメなプレイヤーでごめんよ、ホームズ。

 

後はやっぱり全体のシナリオがちょっと短い。

それでもやっぱりこれ以上続くようだったら同じような展開の繰り返しで飽きちゃうんじゃないかな……とも思ったり。結局手がかりを見つけてピースを繋げるだけですからね。

「ミステリ小説を読む時は種明かしの前に犯人を推理する派」は便利なシステムにあまり頼らないで自分で勝手に謎解きを始めるでしょうが、「とりあえず最後まで読み進めて『なるほどな』で終わる派」にとってはマンネリ気味になって面白くなくなるのではないでしょうか。

シナリオ(事件)がもっと魅力的だったならプレイヤーをずっと惹き付けられるかもしれませんけど、どうだろう。やっぱり小説で読むのとは違うからか、そこまでの魅力があるのかというとウーンという感じ。

 

というかこのゲームをやって、小説でホームズの活躍を楽しむのと自分がホームズとして捜査するということは違うものなのだなとつくづく思いました。

面白さのジャンルが違います。小説では冒険のワクワクや事件の奇抜さが魅力でしたが、実際にホームズに成りきってみると自分の推理力や観察力がどれくらいあるかということを試されている気分になります。

 

それと気になるのは犯人、そして有罪無罪の選択肢のどちらを選んだところでそこまでエンドが変わらないというところ。この点は他の人も色々批評していますが、私はプレイヤーの判断に任せる感じがして好きだったりしますよ。

 

ミニゲームについて

 

私は基本的にやり込み要素とかミニゲームとか、そういう類のものが好きなので楽しくやれました。

咄嗟の判断力を問われるようなシーンも、「ホームズならこんなのお手の物のはずだ!」と暗示を自分にかければけっこうノリで行けたり…。まあでもやっぱ死に覚えゲーなところもありますけどね。ピラミッドのところは死にまくりました。

それでも楽しかったんで全部スキップせずに進めました。

 

欲を言えばもう少しピッキングとか暗号解読とかの難易度を上げて欲しかったですね。これまでのFrogwaresさんのゲーム(この会社はこれまでにホームズもののゲームをいくつか出しています)のような歯ごたえがあったらな、という気持ちがあります。

まあさすがにイギリスの美術や地理に精通してないと解けないといえレベルのものは勘弁して欲しいですが。(『Sherlock Holmes:Nemesis』のことだぞ!おい!)

 

事件の解説

 

このゲームの特徴として、真犯人がよく分からないということがあります。

正直私もはっきりとは分かってないのですが、おそらく犯人当て後の結論を確認する場面で文字が緑色になると推理が当たっているのかな、と。そういう基準です。

 

以下からはそれぞれの事件の解説と推理の答え合わせをしていきますが、ここには私個人の解釈や感想もけっこう入っています。その点をちょっと注意だけしておいてください。

 

餌食は語る

 

8歳のトム・ハーストの父親が失踪してしまった事件。トム君から依頼を受けて捜査を進めるホームズだが、この失踪の裏にはどうやら慈善家で知られるマーシュ卿が絡んでいるらしい、というストーリーです。

 

まず真相から説明します。

マーシュ卿含む狩猟クラブのメンバーはエッピングフォレストで「特別教育課程」と称し、貧民を狩っていた。一方退役軍人であるジョージ・ハーストは何らかの形でそのことを知り、マーシュ卿らを私刑に処すために自ら銃をとった。

……というのが全てのエンディングを見て読み取れる情報です。

 

また最後の銃の選択肢では、

・「ハーストを撃つ」とホームズは「これ以上君(ハースト)の手を汚す訳にはいかないからね」と言ってハーストを殺します。

・「マーシュ卿を撃つ」でも上と同様にマーシュ卿を殺す。

・「撃たない」ではハーストがマーシュ卿の首をそのままサクッと刈ります。

 

私が初めやった時は「ジョージ・ハーストは精神異常者」という結論を出し、彼は傷病兵に厳しい世間のために疲弊していたのだと判断して「無罪」としました。

というのもその時点ではマーシュ卿を犯人とする積極的な証拠がないと思ったからです。ハーストが精神異常者という証拠もなかったけれども、まあそこは消去法でありえそうなとこからいきました。

 

しかしその後のムービーでマーシュ卿が実際に「貧民狩り」をしていることが明かされます。こういう後出しってズルいよね。

 

とはいえ、マーシュ卿が真犯人であることはちゃんと捜査の中で知ることができるといえるでしょう。

 

マーシュ卿は慈善活動の内容についてどんなに問い質しても語ろうとせず、また、特別教育課程の集会に関する手紙は彼の金庫の中にありました。

もちろん普通の慈善活動なら口を閉ざす必要はありません。それに、たかだかその集会の手紙を金庫に大事に保管することもないでしょう。

このやたらと秘密主義で頑なな様子が「おかしい」のは明らかです。

 

とはいえこれだけでは「マーシュ卿が犯人!」と断言するのは難しいことです。

それでも、「ハーストかマーシュ卿、どちらが犯人か」と問われたら、マーシュ卿が犯人であると言えるでしょう。このへんをプレイしている時にしっかり考えることができていれば、ハーストを犯人に指名することもなかったのになあ、とちょっと恥ずかしい。

 

結論

そんな訳で最初のトライでは推理を間違えてしまった私ですが、やり直した次の集会では私は最終的に「マーシュ卿を無罪」としました。

マーシュ卿が「狩猟用の人間と救う人間」を勝手な基準で区別していたのはちょっとアレですが(マーシュ卿は貧民狩りを隠蔽するために慈善家という顔を隠れ蓑にしていた)、それでも多くの人がその慈善活動によって救われていることを考えるとマーシュ卿を悪だと断ずるのは難しいからです。それにマーシュ卿は放っておいても病気で死ぬから、これ以上の被害は出ないだろうという判断です。

と、プレイ時はこのように思っていました。マーシュ卿によって殺された人間と救われた人間はある意味バランスが取れてしまっていると考えていたのです。

でもプレイ後から少し時間がたった今はマーシュ卿はガチクズだからな……という気分。人間を娯楽として狩猟する一方で善人ぶった顔をしているとか、狡猾以外の何ものでもないでしょう。刑務所に入れるべきかどうか判断するのだったら、入れるべきという考えも当然あるだろうなと。それでも救った人間の数と、彼自身の地位の高さで減刑はされるでしょうね。

 

最後のマーシュ卿とハーストのどちらを撃つか、という選択肢については「撃たない」を選びました。だって自分の手を汚したくないんだもん…。

ちなみに最初やった時は「どっち撃てばいいんだ!?」と戸惑っているうちにサクッとマーシュ卿がやられました。とうとつすぎるよ。

 

やっぱりこの時代もまだ貴族の権力がとても強かったことが分かりますね。マーシュ卿が殺人をしていることを知っていても警察に告発することができない当時の社会の歪みを感じます。

これは私の勝手な想像なのですが、ハーストがマーシュ卿を殺そう、と決意したのは「特別教育課程」によってハーストのかつての戦友が殺されたからではないでしょうか。

ゲーム中でも退役軍人はあまり社会に受け入れられていない様子が描かれています。ゆえにハーストの戦友が「特別教育課程」に参加し、貧民狩りに遭ったというのは十分に考えられるのではないでしょうか。

だとすると、ハーストがマーシュ卿に向かって「お前のようなやつに俺たちの生活は想像できまい」「戦争に行っても良いことは無い、むしろ酷い目に遭う」などと言っていたのも意味深に聞こえてきますね。

 

緑の研究

 

ザハリアス・グレイストークがローンボウル大会の景品の前でテクン・ウマン像の槍によって貫き殺された事件です。

これはアルベイトがかつて仲間に裏切られた恨みから、南アメリカで知り合ったピグミー族と手を組んで復讐した、が正解。

 

その他の選択肢もちょっと解説します。

 

「チャールズ卿が借金の支払いを工面するためにクラブメンバーを殺し、遺品を手に入れようとした」

 

チャールズ卿がわざわざ殺しにくい槍を使ったり、「テクン・ウマン像が走り出した」なんてアホらしい証言する理由がありません。単に殺したいだけなら呪いになぞらえる必要はなかったでしょう。なのでチャールズ卿は犯人ではないと考えられます。

(ちなみにこの「本当に犯人であるならそんなアホらしい証言をするはずながない」っていうのはホームズ作品原作の「ボスコム谷の殺人」事件からも連想できますよね。ほんとにちなみにですが)

 

「マーリーはテクン・ウマンの呪いを恐れるあまり殺人自動人形を作り出し、選ばれし人間になることで助かろうとした」

 

これと「アルベイトが犯人」の2択で悩みました。さすがにそんな機械は作れないだろ、と思う一方で、これゲームだしありうるかもな、と思ったりして。

なぜならアルベイトが犯人だとテクン・ウマンの像が動いたことが説明できないからです。後からテクン・ウマンの呪いと見せかけるためにアルベイトがわざわざ像の中にピグミー族を潜ませたのだな、と納得しましたが、プレイしている時はかなり頭を抱えました。

 

「殺人はテクン・ウマン像がやった。探索隊が呪いにかかったからだ」

 

このエンドを選ぶとワトスンの視線がちょっと痛い。

 

アルベイトの悪夢

 

しかしアルベイトが犯人と考えると色々難しい点があって、そこが引っかかっている方も多いと思うのでさらに解説しておきます。

 

ちょっとこのシーンを思い出してみてください。かなりアクション多めのシーンだったので思い出しやすいと思います。

ホームズがアルベイトの家に乗り込んだ時のこと、アルベイトは「助けてくれ!」と叫んでおり、何者かに襲われていた様子だった。慌ててホームズたちは攻撃を避けながら中に入り込むが、あっという間に襲撃者は天窓から姿を消してしまう。

しかし襲撃者が逃げ出した後アルベイトの部屋を調べると、テクン・ウマン像がまるで動き出したかのような痕跡が残っていたのだった。

 

ここでアルベイトが犯人と考えると、なぜアルベイトが襲撃されていたのかが分かりません。

共犯者と仲間割れ? テクン・ウマン像が動いた? と色々考えてしまいますが、ここのシーンは「アルベイトが襲撃されていた」というのがそもそも間違いでしょう。

というのも「助けてくれ」とかゴタゴタ言っている割には部屋の中が綺麗だったのです。割れ物っぽいものもインテリアにはありましたが、壊れているものはありませんでした。なので、アルベイトは襲われてなどいなかったのです。

 

ホームズが見つけた時アルベイトは自分の部屋の石の棺桶の中に入っていました。恐らくその中でかつて神殿に取り残された時の悪夢を見て、思わず「助けてくれ!」と魘されたのでしょう。

いや、ひょっとしたら石の棺桶はアルベイトが悪夢を見た時のために用意されていたのかもしれまそん。アルベイトは魘されたら暴れるタイプだったんでしょう。たぶん。それで共犯者のピグミー族が棺桶に入れてあげたのかもしれません。

その叫び声を聞いて勘違いしたホームズたちが部屋に駆け込んだことで、ピグミー族はとっさに敵がやって来たと思ったのでしょう。それで追い返すためにホームズたちを攻撃した……という風に考えられます。

あ、そしたら棺桶にアルベイトを入れたのは自分が逃げた後もアルベイトを外敵から守れるようにだろうか。うーん、棺桶の謎は深まる一方です。

 

アルベイトの息子

 

アルベイトの家には「息子の部屋」とされる小部屋があります。この部屋には小さなベッドがあって、アルベイトによると「息子のため」だそうです。

しかしアルベイトはもう家族には会わないという旨の手紙を(出してはいないものの)書いています。

それに息子のものにしては少し小さすぎるようにも感じますね。息子は遠征に行く前には産まれていたはずなので、最低でも今は14歳。欧米圏の子供は成長が早いので、あんなに小さいということはないんじゃないだろうか、と感じます。

 

ゆえにこれはピグミー族のベッドと考えるべきということになります。この小部屋に人の過ごしていた形跡があることで、「アルベイトには共犯者が存在する可能性がある」と考えつく根拠になりえるでしょう。

 

と言ってもこのことはアルベイトを犯人とする積極的な証拠にはなりません。あくまでひょっとしたらという程度です。

もしアルベイトが息子の身長を少なく見積もったのだとしたら、それは彼がもう長いこと息子の顔を見ていないからだ……とか考えると物悲しくなりますね。

 

結論

 

結局私はアルベイトを「無罪」にしました。

アルベイトはもうすでに神殿に置いてけぼりにされたり奴隷になったりと苦しい目に遭っているので、殺人の罰は事前に受けたと解釈し、これ以上わざわざ刑務所に入れることもないと判断しました。絞首台に吊るされたところで彼はこの殺人を悔い改めなどしないでしょうから、罰しても無意味だという側面もあります。

彼が今回の殺人に引き続いて復讐を続行する可能性も考えたのですが、まあホームズも多少監視をつけるだろうから大丈夫かなと。特定の人物に対して復讐心がある以外は他人に迷惑をかけるタイプでもなさそうだし、刑務所に隔離しなくても慎ましく暮らしてくれることでしょう。

 

不名誉

 

ホームズの自宅に爆弾が仕掛けられた事件。実行犯はジェレマイアという男ですが、その彼の背後にいる真犯人は一体誰なのかを探るストーリーです。

この事件は娼館の元締めでありかつてホームズが逮捕した男、パーシー・フレミング(通称“ダーツ”)が犯人と考えられます。

 

その他の犯人説についてまず解説します。

 

アメリカ人俳優かつホームズの臨時助手オーソン・ワイルドが犯人」

この線は初めから一切眼中にありませんでした。

オーソンはタイミングと脳ミソがつくづく最悪なだけの男で、腹の中に何か一物抱えられる人物ではないという印象です。

「彼はホームズに成り代わりたいと考えている狂人」という結論も出されていましたが、彼のうぬぼれ屋な性格を考えるとそれはありえないかなと思えます。なんせ自分の部屋に自分のポスターを貼るくらいですから。

それにアメリカ人なので、過去に色々あってホームズに恨みを抱いている、という線もありえなさそうです。(当時のイギリスとアメリカは遠い!)

 

よって容疑者の中では一番ホームズを害したいという動機が薄い人物となります。

確かにウザイやつだから犯人にしたくなってしまうけどね。この章では「好きだ、嫌いだ」という偏見から物事を判断してしまうことの善し悪しを問われた気がします。

 

「賭博場のボス、ジャック・コール(通称“ハンマー”)が犯人」

最初やった時、私はうっかりこの人を選んでしまいました。よくよく考えればこの人はありえないということが分かったのですけどね……。

やはりこの人は犯人の中でも一番ホームズを殺したいという動機が強いです。彼の弟に障害が残った原因の一つはホームズでもありますので。また、実行犯のジェレマイアが犯行の翌日にコールを訪ねていたというのもかなり大きいです。

 

しかし、犯人はパーシー・フレミング以外にありえません。オーソン・ワイルドの証言から、ジェレマイアが「パーシーが釈放されたら最後の詰めだ」みたいなこと(ちょっとうろ覚え)を言っていたと分かるからです。まあオーソンが他の人の名前と聞き間違えた可能性もあるけれど。

そしてジャック・コールは自分で言っていたように、ホームズを殺す機会は今までにいくらでもありました。今更ホームズを狙ってくるのは少しおかしい気がします。

あと色々理由があったような気がしますが忘れてしまいました。思い出したら追記します。

 

結論

 

最終的に、パーシー・フレミング「有罪」にしました。

無罪のほうは「ホームズ殺害の計画を練ったのはジェレマイアであり、パーシーはそれに乗っかっただけである」みたいな結論が書かれていましたが、まあそれはないかな、と思います。パーシーは実際ジェレマイアに「最後まで請け負ったことをやり遂げろ」という手紙を送っていました。よってホームズ殺害はパーシーが企てたのでしょう。

 

この事件はまさに「不名誉」という感じですね。ホームズのことを憎んでいる容疑者がわんさか出てくる感じ、嫌いじゃないです。

ちなみにこの話の後、「パーシーを捕まえたところで良い気になるなよ。俺たちはお前をいつでも狙ってるぜ」という匿名の手紙が届きます。奴は四天王の中でも最弱…第二第三の俺たち…

 

連鎖反応

 

広場でたくさんの人が巻き込まれる悲惨な事故が起こる話。

その事故の大元は、銀行強盗犯のラスコ一味の馬車が感電したことが原因でした。銀行強盗をした後にラスコ一味を殺した犯人は誰なのか、という事件です。

この事件は鉄道職員であり、病気の娘を持つレジナルド・ブッチャーが犯人です。

 

他の選択肢は以下。

 

「信心深いが前科者のベンジャミン・ファウラーが犯人」

 

この人が犯人だと予想した人は少ないのではないでしょうか?

今はもう更生しているから、という同情の気持ちから「この人が犯人であって欲しくない」と思った方もいたでしょう。同情抜きで考えても、この人だけは犯人足りうるだけの証拠や動機が少なかったため、消去法で犯人ではないと言えます。

 

「電気技師であり無政府主義のトマス・ギャレットが犯人」

 

ギャレットは無政府主義、つまり弱者を弾圧する組織が嫌いな人です。

いくら組織が嫌いだとはいえ、彼が銀行を襲うメリットは少ないと言えます。銀行には彼と同じように社会に苦しめられている人のお金も預けられているだろうし。

また、銀行強盗の後にわざわざラスコ一味を殺す動機も一切ありません。ラスコ一味を殺し損ねて恨みを買ったらたまったものじゃありませんからね。そうまでしてお金が欲しいということもないと思います。

電気技師という点だけちょっと犯人めいたものを感じますが、ここはただの偶然でしょう。

 

結論

 

この事件の犯人を当てるのは簡単でしたが、道徳的判断には悩みました。

結論として、私はレジナルド・ブッチャーを「有罪」としました。

病気の娘を持つ人はみんな銀行強盗をしてもいいのか?というと、違いますよね。

だからといって「彼は銀行強盗なんかするべきじゃなかった」と言うつもりもありません。ブッチャーは追い詰められた末に、最終的に銀行強盗をするしかなかったという経緯も理解できるからです。

ただし、銀行には沢山の人々のお金が預けられています。そこにはブッチャー同様に病気の子供を持つ親もいるかもしれません。その上、考えなしに道路の途中で馬車を感電させたせいで凄惨な事故も起こってしまいました。

私だってブッチャーと同じ境遇に置かれたら彼と同じことをするかもしれませんが、それでも私は彼ではないし、彼がたくさんの人の命を結果的に奪ってしまったのは事実なのです。

 

以上から彼の境遇に同情はしますが、この事件の真相を知った第三者として、ブッチャーを有罪とすべきと感じました。ホームズ自身も娘を持つだけに、この決断を私がさせてしまったのは少し心苦しいものがあります。

 

ところで、ブッチャーは「かつて裕福だった」ことが服装から見て取ることができます。金がないならとりあえずその高級そうな服を質に入れろよと思ったのは私だけ?

あとブッチャーってホームズと話している時、むちゃくちゃ左手の方を見るんです。

俗説によると、人は嘘を吐く時に利き手の方を見ると言われています。ブッチャーは指輪を右手に付けていたので、利き手は左手なんでしょう。まあ、そうじゃなくてもこのシーンは挙動不審すぎ。嘘ついてるんだなあ、とちょっと察しちゃうワンシーンです。

 

熱き夢よ

 

最終章、アリスがケイトリンを誘拐して燃える船の中で心中しようとする事件。

この事件については、ケイトリンとアリス関係について解説をさせて頂きます。最後までプレイした方なら大体分かってるかもしれませんが、あんまり理解できなかった人もいるかもしれないので一応。

 

ホームズの義理の娘ケイトリンは、実はモリアーティの遺した子供だったのだ!というシナリオです。でもこれモリアーティのことをあまり知らなければ正直ちょっと話が分かりずらいのでは…という気がしますね。

モリアーティはホームズの宿敵であり、かつてロンドンの裏社会を支配していた犯罪者です。原作では彼はホームズによって破滅させられることになりましたが、娘がいるかどうかまでは描写されませんでした。

それが、このゲームでは「実はモリアーティには娘がいて、それをホームズが引き取って代わりに育てていたのだ」というストーリーになっています。

 

ケイトリンの心情について

 

さて、ではさっそくケイトリンがゲーム中何を考えていたかを考察してみましょうか。

たぶんケイトリンとしてはずっとお父さん(ホームズ)に構って欲しかったという気持ちがあったのでしょう。

このことは冒頭から結構表現されていて、構って欲しいな、こっちに気を向けて欲しいな、とホームズの気を惹くような言動をしています。里親だからこそ余計に愛されているという実感が欲しかったのでしょうね。

 

でもホームズはあんな性格だからな…。

親友のワトスンにも「彼はめったに愛情のこもった言葉を口にしない」と言われているので(原作より)、まだ幼いケイトリンにとっては自分が必要とされていないようにさえ感じていたかもしれません。

自分の心の内にある深い感情や考えを明かすのが嫌いなタイプなんですよね、ホームズは。薬物とかもやってるし、家庭生活をまともに送れそうな人間には到底思えません。

ワトスンとかは大人だからそういう所も分かってくれるけど、ケイトリンはまだそういう複雑な男心が理解できないでしょう。

 

ただ、それだけならまだよくある親子のすれ違いですんだかもしれません。しかしホームズに憎しみを抱くアリスがケイトリンに目をつけたことで事情がガラッと変わりました。

 

アリスの事情

 

アリスも同様に里親に預けられており、そこで愛情のない子供時代を送っていました。

親戚連中の間をたらい回しにされ、召使いのようにこき使わる人生だったようです。やっぱりここは父親が犯罪者という点も大きかったのでしょう。「犯罪者の子供のくせに」といわれのない偏見を受けていたのかもしれません。

 

そんなアリスはケイトリンに対してかつての自分を投影し、ケイトリンを守ってやらねばと感じます。

ケイトリンもアリスと同様に養女であり、犯罪者の娘だからです。ゆえに、「ひょっとしてケイトリンもホームズに冷たくされているのでは?」と彼女は疑いました。

そこでそれとなく彼らに接触したところ、「ホームズは娘の誕生日も覚えていられないようなクソ野郎」ということを知り、「ケイトリンは愛情を受けていないに違いない」という確信を深めたのです。

 

それでもケイトリンはホームズに意外と大切にされているのでアリスほど境遇は酷くなかったはずだと思うんだけど、やっぱり精神異常者ということもあって思い込みが強かったのだろうね。

 

私の父を投獄したシャーロック・ホームズは冷酷無血な男だ。そんなやつが養女に優しくするはずがない!(だって私は叔母にさえ優しくされなかったんだから)

その上犯罪者モリアーティの娘なのだから、なおさらケイトリンをホームズが愛するはずがない!(だって私も父が犯罪者だったおかげで酷い目に遭ったんだから)

 

なんていう風にアリスは考えて、それをケイトリンに吹き込んだのでしょう。

 

アリスはケイトリンのことを「素直で良い子」と度々口にしますが、あれはケイトリンのことを肯定することで間接的に自分を慰めていたのではないでしょうか。

アリスにも苦しい過去があり、黒魔術を使って故人に依存していたことが物語では示唆されています。

 

一方ケイトリンはホームズへの不信感、そしてアリスの教えてくれる非日常でオカルトな世界に魅了されることで、アリスに傾倒していきます。(こういう年頃の子供ってオカルトちっくなのが好きだよね)

 

ホームズがやたらとアリスに対して「魔女め!」「あの女!」とブチ切れていたのに戸惑った人もいるかもしれませんが、ホームズはこうしたアリスとケイトリンの心情を把握していたからこそあんなに必死に「ケイトリンがアリスに取られる!」と焦っていたのです。

まあおおむね把握しているのにケイトリンの心のケアが上手くできないのがホームズの不器用なところなんどけどね…。

 

臆病なホームズ

 

ホームズにとっては忘れたい過去、つまり「ケイトリンがモリアーティの娘である」ということをアリスは無神経に掘り返そうとしました。

 

ケイトリンを引き取った当初、ホームズはそれほど彼女に対して愛情を抱いていなかったはずです。

犯罪王モリアーティの娘を引き取るに至った経緯は詳しく明かされることはありませんが、恐らく「こんな幼い子供を一人にしておけない」という責任感からホームズは彼女を育てることにしたのでしょう。

もしかするとゲームの中でチラッと言われていた通り、遺言か何かでホームズはモリアーティから娘のことを頼まれていたのかもね。それにモリアーティはホームズが殺したようなものだし(原作『最後の事件』を参照のこと)。

そして一緒に過ごすにつれ、ケイトリンに対してホームズは本物の親としての愛が生まれてきたのです。 

 

そんなホームズにとって、「ケイトリンの父はモリアーティ」という真実を明かされることは何よりも恐ろしいことだったでしょう。

ケイトリンの本当の父親を殺したのは自分。その事実はホームズに重くのしかかっていたのかもしれません。

それに常識的に考えたら極悪人の娘を大事に育てるやつなんてほとんどいません。いるとしたら「あいつの娘をオレが育てて酷い目あわせてやるぜグヘヘヘ」みたいなサイコパスか、それこそ引き取り手がいないから仕方なく、というやつです。

 

だからもしその真実をケイトリンが知ったら、今度こそホームズへの不信感はMAXになってしまいます(そして実際そうなりました)。

ケイトリンは自分の実の父が犯罪者と知った時、ホームズからの塩対応を思い出して「だからお父さんはあんなに私に冷たかったんだ……」と枕を涙で濡らしたのかもしれませんね。

 ホームズはどっちかっていうと正義の側の人間であり、ケイトリンにとっては悪をやっつけるヒーローのようにさえ見えていたかもしれません。それなのに、実は自分が悪の側の人間だった……。お父さんが私を愛さないのは当然よね、だって正義のヒーローなんだもの。とか思ったのかも。(妄想しすぎ?)

 

ホームズはケイトリンを責任があるから育てただけで、愛情なんてなかった。そういう風に彼女が考えてしまっても仕方のないことです。

 

ワトスンがちょいちょいホームズに「真実を話すべきだ」と諭していたのはそういう事情があります。

ホームズとしてはずっと秘密にしておくことで、ケイトリンに嫌われずにすむし、かつ大事な娘を傷つけないでおける。

でももちろんそれではいけなくて、「ケイトリンだってもう大人になる」のだから真実を知る権利がある。実の父親についても気になるだろうしね。

その上アリスはモリアーティのことをケイトリンにバラしてしまいそうな気配があるのです。ホームズを憎むアリスのことだから悪意たっぷりに話すでしょう。

だからこそ、「早めに本当のことを言ってケイトリンの心のフォローをしてあげたらいいんじゃないの?」とワトスンは言っていた訳ですね。

何だかんだ第三者が一番状況を見れてる。ケイトリンとホームズのすれ違いをいち早く気づいたのは彼だったんだろうね。

 

ラスト、燃える船で心中

 

最終的にすべてアリスが真実をバラし、ケイトリンは自分には価値がないと悩みます。

お父様(ホームズ)は私に関心がない、本当の父親は犯罪者……いや、こんなん子供じゃなくても悩むわ。

そんなケイトリンにアリスは一緒に死ぬことを提案します。自分の両親がいる死者の世界にこそ救いがあると信じているからです。アリスがケイトリンに優しいのは先述した通り。ケイトリンはかつての自分と同じ境遇にある(と思い込んでいる)からです。

 

そして最後ホームズがケイトリンの説得に成功できたのは、「決してケイトリンはホームズにとってどうでもいい存在ではない」ということを伝えることができたからなのです。

 

とりあえず、最後まで私は「へー、ホームズはケイトリンのことを大切に思ってるんだな。フーン」という感じでプレイしてました。ちょっと事情が複雑すぎて感情移入しにくい。まあ大切に思ってる割にはケイトリンの誕生日忘れたりするんだけどね!さすがホームズ!

 

最後に

 

この長い記事を最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

総合して、ストーリーがよく練られた良いゲームだと思います。小道具の一つ一つや登場人物のちょっとした行動にも意味があったりするので、隅々まで観察するかいがあります。世界観を重要視する私にとってはめちゃくちゃ面白いゲームでした。

 

このゲームの「決断がプレイヤーにゆだねられるところが好き」「街や人々の雰囲気が好き」「推理システムが好き」という方には、同じゲーム会社が開発する「The Sinking City」というゲームをオススメします。ホラーアドベンチャーゲームですが、結構システム面などはそっくりです。良かったらチェックしてみてください。

 

それでは!