『唇のねじれた男』-「シャーロック・ホームズの冒険」を読んでみた。【全体のあらすじと考察】

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唇のねじれた男(The Man with the Twisted Lip)

 

単行本「シャーロック・ホームズの冒険」に収録された短編の一つ。

ふと麻薬クラブの窓を見上げてみると、そこに夫がいた。しかし中に踏み込んでもなぜか夫の姿はなく……というお話です。

作品の時系列的には、1889年6月のこととされています。

まずは全体のネタバレあらすじからどうぞ。その下に感想をまとめています。

 

あらすじ

 

馴染みの患者が家に帰っていないと聞いたワトスンは阿片窟へ行ったが、そこでなんと変装して潜入していたホームズに遭遇する。

 

ある金持ち、ネビル・セントクレア氏が酷く動揺した様子でここの上階に居るのを外から彼の妻が見かけた。

しかしセントクレア夫人が部屋に押しかけても、そこには何も知らないと言い張る乞食しかいなく、それから彼はもう何日も見つかっていないままらしい。

部屋には血痕があり、セントクレア氏の衣服がすっかり揃っていたが、何処に消えたかは分からなかった。

 

しかし阿片窟から戻ったホームズたちは、心配しなくていいという手紙が夫からセントクレア夫人に届けられたことを知る。

とはいえ居場所の手がかりはなく、ホームズは一晩中考え込むがとうとう糸口を得て、自分はなんて馬鹿なんだと反省した。

ホームズたちは拘留されていた乞食に会いに行くと、醜い彼の顔をスポンジで拭った。すると、そこからセントクレア氏の顔が出てきたのである。

 

セントクレア氏は偶然から乞食としての自分の才能に気づき、演劇で培った化粧術と教育のある軽妙な受け答えの技術によって普通の仕事よりもずっと多くの収入を得ていた。

しかし着替えている最中を窓から妻に目撃され、この仕事がバレては家族の恥だと考えた彼は慌てて乞食に変装して、警察に連行されても黙秘を突き通したのだ。

警察は事件性がないことから彼の秘密を公にしないまま釈放すると温情をかけたが、以降は乞食をしないように約束させた。

 

事件の珍奇さ

 

この『唇のねじれた男』は地味に人気がある作品です。

セントクレア氏は実に尊敬できる人物で、とうてい後暗いことに関わっていなさそうな人物として説明されています。

それが実は乞食だった、というのは灯台もと暗しみたいな意外さがあるのですね。社会的地位の高い人間に対する無意識な信頼と言うべきでしょうか。

でもセントクレア氏が一瞬のうちに消えた代わりに部屋の中には乞食がいたなら、当然乞食とセントクレア氏が入れ替わったと考えるのが妥当そうです。ホームズにとってもその推理が、途中まで固定観念によって妨げられていたのでしょうね。

 

卓抜した乞食の腕前

 最初のワトスンの患者に関する描写はそのままセントクレアに当てはまりますね。

教養のある人が悪癖の味を知り、身の破滅に近づきかける。

どちらもこの話の後には改心したと信じたいものです。でも乞食としての年収はおよそ1400万円以上。これはハマる。

この話に触発されて乞食を始めた人もいそうだと思います。

実際私も読んでいてちょっと乞食でも始めようかなんて考えちゃいました。

 

でもここまで稼げたのは、演技と化粧と受け答えの技術があったからこそなのですよね。特に化粧術は、化粧する前の姿を知らなかったとはいえあのホームズが演技と見抜けないほどの腕前です。

見た目やコミュニケーション能力は普段私たちが仕事するうえでも同様に大事になってきますから、やはりお金を稼ぐ上で大事なことというのはある程度決まっているのかもしれませんね。

 

戦慄のダブルベッド

 “My room at The Cedars is a double-bedded one.”

――「シダーズの部屋はダブルベッドつきなんだ(だから君も泊まっていって捜査に協力してくれ)」

 

伝説の言葉。

ダブルベッドって、あのダブルベッドですか?!

一応グーグルで画像検索とか海外のサイトの旅行サイトとかを調べてみたのですが、海外でもダブルベッドの認識は日本と変わらなさそうです。

つまりベッドが2つある部屋は「ツインルーム」と呼ばれるし(地域によって差あり)、2人で眠れるサイズのベッドがある部屋は「ダブルルーム」と呼ばれます。

 

まあ、まさかそんなことは有り得ませんよね。まさか。さすがにいい大人なホームズが一緒のベッドを使おうなんて言うわけがありませんよ。まさか。

私の調査不足というだけで、イギリスでは2つのベッドがある部屋をそういう呼び方をしていたのでしょう。きっと。たぶん。

 

でもちなみにその夜ベッドに入ったのはワトスンだけなのでした。ホームズはというと夜を徹してシャグ煙草を1オンス吸いながら推理に没頭していたのです。

う、うーん。そ、そうか。(もしホームズが推理に没頭していなかったらと考えるのはやめにしよう)

 

J・H・ワトスン

 

 “…… . Or should you rather that I sent James off to bed?”

――「ジェームズは寝室に行かせておいたほうがいいかしら?」

 

ワトスンの奥さんが家に駆け込んできた知人女性にかけた言葉。

『緋色の研究』によると名前はジョン・H・ワトスンのはずだったが、この話では奥さんはワトスンをジェームズと呼んでいます。

 

ワトスンの本当の名前はどっちだ……!?

 

私としては、ワトスンは作品中で偽名を使っていたけどここだけうっかり本名を書いてしまったという説を推します。

もしくは、ミドルネームのHを「ヘイミッシュスコットランドでジェームズの意)」と解釈する人もいるらしいです。

BBCドラマ版ホームズはたしか後者の説をとっていたような気がします(うろ覚え)。

 

とはいえ、ワトスンの名前はドイルの知人からとったと考えられています。

なのでドイルがその知人の名前をうっかり書いてしまった、なんて説が一番もっともらしそう。

しかし……!

シャーロキアンはワトスンとホームズが実在の人物だとするのが常識なのです!

ドイルなんて人は知らない!

シャーロック・ホームズシリーズの作者はワトスンだ!

 

という訳でワトスンが間違えて書いちゃった説が一番もっともらしいということです。まったくもうワトスンったら。

 

 

次回はダチョウの中から宝石が!?『青いガーネット』です。

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