『緑柱石の宝冠』-「シャーロック・ホームズ」を読んでみた。【全体のあらすじと考察】

緑柱石の宝冠（The Adventure of the Beryl Coronet）

※「ベリルの宝冠」とも

『シャーロック・ホームズの冒険』に収録された短編の一つ。

もぎ取られた宝石、しかしその犯人は本当に息子だったのか？というお話。

それではまず全体のあらすじからどうぞ。ネタバレなのでご注意ください。

感想はその後ろにまとめてあります。

あらすじ

英国のさる重要人物から借金の担保として宝冠を預かった銀行員は、それを厳重に管理するように家族に言って就寝した。

しかし夜中にふと目が覚めると、自分の息子が無残に宝石がもぎ取られた宝冠を持って立っていたのだ。

激昂した銀行員は息子にもぎ取った宝石の在処を詰問するが、頑なに口を割らないため、この危機にうろたえながらホームズの所へ相談しにやって来た。

盗まれた現場を調査し、さらに変装などを用いて捜査を終えたホームズは宝冠を盗もうとしたのは、悪い彼氏に唆された姪のメアリーだったと明らかにした。

息子は夜中に盗みを働くメアリーを目撃し、後を追いかけたところでメアリーの彼氏に遭遇した。

そこで乱闘になった際に冠から宝石が取れてしまい、それを直そうとしていた所を銀行員に見られたのだ。

しかし詰問されても、気高い騎士精神で息子はメアリーの悪事を暴き立てなかった。

ホームズは売られた宝石を買って取り戻すことができた。

既にメアリーは彼氏と共に失踪していたが、ふさわしい報いはやがて訪れるだろう。

ホームズの推理

• もし家の中で宝冠から宝石がもぎ取れたなら、家中にその音が響いただろうが、そんな大きな音は誰も聞かなかった
• 宝石の居場所を話さないことは明らかに息子にとって不利になるので、きっとそうはできない理由がある
• 姪のメアリがもぎ取られた宝冠を見た時に過剰にショックを受けていたこと
• 家の周りの足跡から起こったことを推測

が、今回の事件においてホームズが推理したものです。

そしてこの話の面白いところ。

• 作中の人物はみんな息子を犯人として考えているのに、ホームズはそれに反対していること
• 犯人でないなら、息子がとった謎の行動の真意とは？
• 地位の高い人がうろたえていることや、盗難品の高価さからくるスキャンダル性
• ホームズの捜査の手際の良さ

一個一個振り返っていきましょう。

ホームズの確信の根拠

 いつも思いますが、ホームズはよくもまあこんなに自信満々に「ヤツは犯人じゃない」と言えるものです。

もちろん、それが外れることもあったでしょうが。

今回はベーカー街にやってきた銀行員の話を聞いただけで、ホームズは息子の事を犯人ではないと言い切っています。

しかし、この時点の彼の心中では潔白の可能性が8割といったところだったでしょう。可能性が10割の確信に変わったのは、現場を見てからだと考えられます。

現場を見るまでは、そこに音を立てないで宝冠から宝石をうまくねじり取る道具があるかどうかわかりません。息子だってずっと黙っていれば何とかなると考えている救いようのないバカタレだったりするかもしれません。

でもまあきっとそんなことはないだろう、と考えてホームズは推理をしたという訳ですね。 

銀行員の信頼

息子は犯人じゃなかったし、宝石は取り戻せたからよかったよかった！

なーんて言ってられませんよね。

さる高貴な方が五万ポンドを借りたというのは極秘にしなければいけなかったけれど、こんなに大騒ぎしたのでは秘密も何もないんじゃないかと思います。

 実際、この銀行員さんはほとんど今後の自分の仕事については絶望しきった見解を持っています。

それでも夜逃げしないできっちり立ち向かっています。

その上顧客のために自分の息子さえ疑って宝石を取り戻そうとしているのは、非常に誠実な姿勢です。

そんな姿勢が今後評価されるといいな、と願いますが、やっぱり下がった評判を上げるのは大変でしょうね。

豪快なお弁当

“He cut a slice of beef from the joint upon the sideboard, sandwiched it between two rounds of bread, and thrusting this rude meal into his pocket”

――ホームズは棚の上にあった肉の塊から一切れスライスすると、輪切りにしたパンでサンドし、できたそのテキトーな食事をポケットに突っ込んだ。

今度は浮浪者に変装するホームズ。ゴーカイなお弁当を持っていく。

変装して調査に出かける前に、ささっと準備しているシーンです。

それにしても、ちょっと美味しそうに思えてしまうのが悔しいですね。

後でポケットの中がパンくずだらけになりそうとか、実際はパサパサでそんなに美味しくないんだろうな、とかいう現実的に考えると色々思う所はあるのですが。でもこっちまでサンドイッチが食べたくなってしまう、そんな一幕。