世界のおもしろジョーク「ホームズとワトスン」徹底解説とともに

 

世界で一番笑えると言われるジョークの1つに、シャーロック・ホームズが元ネタのジョークが存在する。

もとは英国のさる所が作ったジョークで、ネットに広がるうちに色々と改変されていった。

ちょっと古いやつとはいえ、これがなかなか秀逸なのだ。ホームズの原作を知らない人間でも思わず唸らされる。

そのうえ、原作小説を知っている人間にとっては面白さましまし!

 

先日、私はネットでこのジョークについて調べていた。

しかし、ネットの日本語訳・解説には、小説における2人の関係をしっかり捉えたものが少ないように感じられる。

 

これからそのジョークを紹介しようと思うが、折角なので、ホームズファンたる私の解説も入れてみようと思う。

 

さて、それではジョークの原文を紹介しよう。

(このジョークは和訳よりも原文の方が秀逸だ!)

 

Sherlock Holmes and Dr. Watson go on a camping trip.

After a good dinner and a bottle of wine, they retire for the night, and go to sleep. Some hours later, Holmes wakes up and nudges his faithful friend.

‘Watson, look up at the sky and tell me what you see.”

“I see millions and millions of stars, Holmes,” replies Watson.

“And what do you deduce from that?”

Watson ponders for a minute.

“Well, astronomically, it tells me that there are millions of galaxies and potentially billions of planets.  

Astrologically, I observe that Saturn is in Leo. 

Horologically, I deduce that the time is approximately a quarter past three.

“Meteorologically, I suspect that we will have a beautiful day tomorrow.

Theologically, I can see that God is all powerful and that we are a small and insignificant part of the universe.

What does it tell you, Holmes?”

Holmes is silent for a moment.

‘Watson, you idiot!” he says. “Someone has stolen our tent!”

 

では、次は私の和訳である。

 

シャーロック・ホームズとワトソン博士はキャンプに出かけていた。

美味しい夕食とワインをたいらげたところで、彼らは眠りについた。

そしてその数時間後、ホームズは忠実なる友をつつき起こした。

 

「ワトソン、空を見上げてみろ。何が見える?」

「満点の星空だ」

「それでは、ここから何を推理する?」

ワトソンはしばし熟考した。

「そうだな。

天文学的に考えるなら、そこには何百万もの銀河と、何十億もの惑星が存在するかもしれない。

占星学的に言うなら、土星がしし座宮にかかっている所が観測される。

時計学なら、だいたい三時十五分ごろだろうと言える。

気象学で予報するなら、たぶん明日は良い天気に恵まれるだろうな。

神秘学では、神は全能であり、宇宙にとって僕たちは取るに足らないちっぽけな存在だ。

ホームズ、君なら何が分かる?」

一瞬沈黙した後、ホームズは答えた。

「馬鹿、僕たちのテントが盗まれたんだよ!」”

 

 

いやー、何度読んでも面白い

原作の2人の関係をしっかり捉えているところなんかが特に素晴らしい。

 

では、原作を知らない人のために、あるいは、他の人の感想を知りたいという人のために、私の所感を以下に述べる。

原作を知らない人のために、基本的なことまで説明してある。なので、ホームズをよく知らない人も安心して欲しい。

 

  • 「ホームズとワトソンが一緒にキャンプ」

原作を知らない人は、どうして男2人でキャンプに出かけているのか不思議に思うかもしれない。

実を言うと、ワトソンはホームズの同居人であり友人なのだ。

だから、2人でキャンプに出かけていることにもまったく違和感はない。いつもの生活の延長に過ぎないのだから。

 

ちなみに原作では、ホームズはものすごくロンドンから出るのが嫌いな性格だ。

ロンドンの犯罪者を見張るため、という理由らしいが。

そんなホームズがキャンプに出かけているなんていうのはちょっと驚きな話だと思う。

ホームズはむちゃくちゃ仕事人間である。遊びのために遠出するなんてとても考えられない。

 

ではこのジョークでのホームズは何故わざわざキャンプをしているのだろう?

これには3通り理由が考えられる。

  1. その付近で何らかの事件が起きた。
  2. 実はここはロンドンだったのだ。
  3. 『最後の事件』での逃避行中のワンシーン。

 

1番は、そのキャンプ場の近くで何か事件が起きたということだ。

ホームズは事件が起きたとなれば、イギリス中をどこでも飛び回る。その瞬間だけはロンドンにいることにこだわらない。

きっと景観のいい場所で何らかの事件が起きたので、どうせだからついでにキャンプでもしようという話になったのだろう。

おお、その光景が目に浮かぶようだ(ホームズ中毒者末期)。

 

2番は、実はキャンプ場はロンドンにあったという説だ。

ロンドンにいたがるホームズも、そのロンドンの中でキャンプするなら文句は言うまい。

しかし、ロンドンは大都会だ。日本でいうと東京である。

しかも当時(ホームズの物語は19世紀)のロンドンなら、公園は浮浪者で溢れていたことだろう。

そんなところでキャンプしたら、当然テントを盗まれるよね。

 

3番は、これを『最後の事件』というストーリーのワンシーンなのではないかとする説だ。

『最後の事件』という話にて、ホームズはある事情でロンドンから離れて逃避行をすることになる。

その道中で、ホームズとワトソンは風光明媚な土地を通り過ぎながら旅をするのだ。

このキャンプはそのうちの土地の一つでしたものではないだろうか。

 

  • 「ここから何を推理する?」

もとの英文では、

“And what do you deduce from that?”

とある。

これはホームズがワトソンの意見を聞く時の決まり文句。

こうやって尋ねられると、ワトソンは一生懸命に推理をしてみて、そしてその推理をホームズが修正してやるまでがお約束の流れだ。

ここもきちんと原作の定番を踏んでいる。

ホームズファンには思わずグッとくるポイントだ。

 

天文学、占星学、時計学、気象学、神学……。

ワトソンめ、意外と博識だな?!

と思わず驚いてしまうこの知識の披露っぷり。

 

原作のワトソンがこれだけの知識を持っていたかどうかはちょっと分からない。

しかし、この返答の仕方はとってもワトソンらしい!

 

先ほども言った通り、ワトソンは自分なりに頑張って推理する。

普段からホームズに

「物事を多角的に見ろ」

「主観的な考えは偏った見方を生み出すぞ」

とかなんとか言われるので、それを考慮した結果がこれなのだろう。

ちゃんとワトソンはホームズの言う通りにできている。残念ながら、まったくの見当外れだった訳だが。

 

  • 「バカ、僕たちのテントが盗まれたんだよ!」

確かに。こんな単純なことに気がつかないなんて、ワトソンは実にバカだ。

 

しかし、ここはちょっと原作とは異なるかもしれない。

小説のホームズはどっちかっていうと、遠回しな嫌味を言いたがるタイプである。直接言われるより心に刺さるやつだ。

しかし、ここでは単純に「バカ」と罵っている。

まあここは人によって意見が違うだろう。

一個人の意見として、私はちょっと違和感を覚えたというだけだ。

 

ところで、かの名探偵ホームズがテントを盗られたことに気づけなかったとは……。

よっぽど熟睡していたんだろうなあ。

そう思うと、微笑ましいものがある。

 

  • 派生したジョーク

このジョークは派生したものだ。

文脈は変わらないが、細かいところで変化している。他にも色々と種類があるのだ。

 

例えば、

「ここから何が推理できる?」

「そうだな。ここには満点の星がある。

この星のいくつかは惑星を持っているだろうし、その中には地球のような惑星が存在することもありえそうだ。

となると、地球に似た惑星がいくらかあるなら、もしかするとその中には同じく生命が存在するかもしれない」

というパターンだ。

 

ワトソンは生命の可能性にまで話を広げてしまっている。

やっぱりまるでトンチンカンな答えだ。

しかし、私はどちらかというとこの返答のほうが好きかもしれない。

原作においてワトソンはホームズに、ロマンチストで詩情的な言い回しをする、とよく言われている。

星の話から始まって宇宙の雄大さを語るこのワトソンはロマンチストそのものだ。

よりワトソンらしさを求めるなら、こちらの文のほうが近いのかもしれないと思う。

 

 

以上、かの有名なジョークをホームズファンが解説してみた。

ジョークを説明するなんて無粋だと思われるかもしれないが、どうしても語りたいという情熱が止められなかったのだ。どうかご容赦願いたい。

 

しかし、今後ももっとこのようなホームズのジョークが増えて欲しいと私は切に願っている。

ホームズ界は圧倒的に供給が足りない。私は自家発電もしているが、とても需要に追いつきそうにない。

ああ、どうか願わくばホームズの二次がもっとネットに溢れますように!

もし、ホームズの原作を読んでいない方がいらっしゃるのなら、ぜひ読んでみて欲しい。

そして、できればでいい。どんなに短くてもいいから、ホームズの二次作品を生産してみて欲しい。

 

その願いを最後に、締めくくらせてもらう。